君のためなら (8/26)
「琴音なら手紙とLINE、気持ちを伝えるならどっちを選ぶ?」
万里子は真剣な眼差しで質問してきた。
「うーん、そりゃあ手紙……かな」
「その理由は?」
「えーと……」
そう言われると、すぐには何とも答えようがなかった。
自分の気持ちを文字にして伝えるという意味では、手紙もLINEも同じだ。
直感的に手紙と答えた私は、どんな違いを感じたのだろう。
それを言葉にするのは難しかった。
「メールやLINEはさ」
考えている私に構わず、万里子は話し始めた。
「頭の中に溢れてる言葉を無限に入力出来るものだと思うの。画面をスクロールすればいくらでも文字を打ち込める」
「うん、そうだね」
「それに比べて手紙は、紙の上っていう制限がある。もちろん枚数を増やせば長文も書けるけど。それで、ここからはわたしの持論なんだけど」
万里子は冷めたカフェラテで、一旦喉を潤した。
「人は手紙を書くとき、無意識のうちに紙の余白を意識して容量を考えてると思うの」
「容量……ええと、それは文字の大きさとか文章の長さってことだよね?」
「そうそう。それから、制限を意識していると自分の中に溢れてる言葉を出来る限りひとつに絞ろうとする」
私は頷いた。
万里子の話に素直に感心し始めていた。
スマホが普及して、言葉のひとつひとつが軽くなってしまったという話を思い出した。
「すると気持ちはそのひとつの言葉に凝縮される。しかも手紙は相手が読みやすいように丁寧に書く。そこに掛けた『時間』を手紙からは感じ取れるとわたしは思う」
すごいな、と思った。
紙に鉛筆の先が下りて、線が引かれ、それが文字となる。
鉛筆で『あ』と文字を書くのと、スマホで『あ』と文字を打つのとでは消費する時間が違う。
色んな面で、手紙の方が気持ちが伝わりやすい。
万里子はそう言いたいのだろう。