君のためなら (5/26)
「琴音、覚えてる?わたしが小学生の時に男の子と文通してた話」
「あ、うん。覚えてるよ。ヨっくんだっけ?」
ちょうどその事を美容室で思い出していたので、容易く相槌を打てた。
「そうそう、あだ名までよく覚えてるね」
そう言って万里子は笑った。
どことなく哀しい笑顔に見える。
「それで、ヨっくんがどうかしたの?」
あれから何か進展があったのか、失恋と言うからには彼と何か接触があったのだろうか。
好奇心を抑えながら彼女の話を促す。
「うん、まあ……彼からの最後の手紙の話はしたっけ?」
「最後の?そんなのあったんだ」
「うん、中学に入学した頃にそれまで途絶えてた手紙が届いたの。内容は一方的なものだった」
手紙にはこう書かれていたという。
『今まで手紙書いてなくてごめん
もう二度と会えないかもしれない
でも君のためなら、いつか必ず』
手紙には点々と水でふやけたような跡が残っていたらしい。
会う約束もしていないにも関わらず、「もう二度と会えない」というのを変に思ったと万里子は言った。
「それでさ、最近の話になるんだけど……」
万里子は何かを飲み込むような仕草をした。
明るく振舞っている彼女の裏側に暗さを感じた。
「うん」
私は彼女の次の言葉を待った。
「2週間くらい前かな……駅前で彼に会ったの、偶然」