君のためなら (4/26)

「いい感じになったね、琴音!」

ミスドの新作ドーナツを頬張りながら万里子は言った。

私たちは髪を切った後、甘いものを食べに行こう、と近くにあった店に入ったのだった。


失恋にはスイーツ、と彼女が推してくれた。


「万里子こそ、似合ってる」


私の褒め言葉に彼女は照れる。
そんな素直なところが好きだ。


「で、今回はどんな失恋だったの?髪を切る前に詳しく聞くべきだったけど」

万里子はそう言いながら、エンゼルクリームに手をつけた。


「髪を切ったから笑い話として聞いてくれればそれでいいよ」

と答える私はポンデリングをかじった。





それから私は、ダブルデートに行けなかった顛末を語った。


高校に入って初めてできた友達、佐々木みのりに彼氏が出来たこと。

みのりが私に男の子を紹介するためにダブルデートを企画してくれたこと。



デートまで後数日というところで、みのりがレイプ未遂に遭ったこと。

同じクラスの甘橋さんがみのりを助けたこと。

その件を機に、甘橋さんとみのりが仲良くなったこと。



甘橋さんが私の代わりにダブルデートに誘われたこと。

初めは佐々木みのりが甘橋さんを嫌っていたこと。

なぜかデートを覗きに行った私の話をした時、万里子は笑ってくれた。



「その甘橋って子もすごいよね~」

心底感心したように、彼女は言った。


「ほんとにね。明日からの学校どうしよ、みのりにどんな顔して会えばいいんだろ。部活も行きづらいなあ……」

私は肩を落とした。


「そうだね~……まあこれでも食べな」

万里子はあと一口残っているエンゼルクリームを私に寄越した。

にやにやする彼女の口元にはクリームが着いている。


今日は本当にいい気分転換になりそうだと、私は万里子からのお裾分けを口に入れた。





「実はさ、わたしもだよ」

と万里子は眉を八の字にした。



「何が?」

聞き返す。



「わたしも失恋……かな。聞いてくれる?」




もちろん、と私は答えた。