独白の声 (11/14)
「大貫刑事、いえ、ヨシキのパパ。少し遅かったですね」
甘橋さんが弱々しいがはっきりとした口調でいった。
「何のことだ」
「もう少し早くここに駆けつけていれば、死に顔くらいは拝めたと思いますよ。もう今となっては誰だか分かりませんよね……」
そう言った後、彼女は顔を上げた。
光のない眼は、対峙する刑事に注がれていた。
「誰なんだ、その黒焦げの奴は……」
この場にいた全員の疑問を大貫刑事が問いかける。
しかし、その疑問の答えに心当たりがあるのは否めなかった。
その気持ちを読みとったように、甘橋さんは上品に笑った。
「……わかっているのではありませんか?」
この場に相応しくないほど、甘橋さんの唇は上品に曲がった。
雨脚が強まった。
細い雨粒が焼け焦げた遺体を濡らす。
大貫刑事は何も答えなかった。
いや、答えられなかったのかもしれない。
甘橋さんは黒く焼けた遺体に視線を落とす。
そして彼女は呟いた。
「かわいそうなヨシキ……」
突然、私たちの目の前で大貫刑事は膝から崩れ落ちた。
その肩は震えていた。