独白の声 (9/14)

雨のせいで額に貼りつく前髪を掻き上げる。

私は再び校舎の中に戻った。
その頃には、他の生徒は外に避難し終わっていた。



遠くの方で消防車のサイレンが鳴っている。
しかし雨が降っているお陰で、消火活動が必要なくらいの出火ではなくなっていた。



火の手が上がっていた校舎の壁伝いの排水パイプも鎮火していた。





校舎内は蒸し暑く、息苦しかった。



屋上に間違いなく誰かがいた。
あれは甘橋さんなんじゃないだろうか……


根拠のない考えが頭の中で湧いて止まることを知らない。




いるはずがないのに。


そう思いながらも私は階段を駆け上がった。




今朝は登校してくる生徒を大貫さんたちが見張っていた。
もし甘橋さんが登校していれば、そこで捕まっていたはずだ。

実際に甘橋さんは教室に来ていなかった。

つまり、彼女は学校内にはいないはずなのに……



しかし、私の中でそんな決め付けは安易すぎるという考えが浮かぶ。


1限目が始まる前、女子トイレの個室にいたのは……
屋上に人影を見た時から、その事が頭から離れない。

もしも、そこに身を隠していたのが……


そのもしもの勘が当たっていれば、甘橋さんが学校内にいなかったと結論付けるのは間違いだ。


私は階段を上る足を速く動かした。

校舎の3階に差し掛かった所で、2階の教室の方から声が聞こえた。




「どうすりゃいいんだ……



「楢崎、とにかくここから出よう。話はそれからだ」





楢崎って……


すると階段の方に話し声の主が現れた。

廊下の角を曲がって駆けてきたのは2人の男子生徒。


2人は、階段の途中にいる私に気が付き驚いたらしく立ち止まった。





「小原さん?どうして君が……どこへ行くんだい?」

2人の男子生徒の内の1人が言った。
探偵部の篠崎さんだった。


もう1人は察するところ、楢崎大地だろう。




「篠崎さんっ、屋上に……

勢いでそこまで答えた。



その時、今度は階段の上から荒々しく声を掛けられた。




「おい君たち!早く避難するんだっ……

見上げるとそこにいたのは、大貫刑事だった。



私の顔を見て、大貫刑事は声を詰まらせた。
そして階下には楢崎大地と篠崎さんがいたことにも気が付いたようだ。

大貫刑事は足早に階段を下り、こちらに向かいながら改めて口を開く。


「君たちは事件に首を突っ込むのが好きだな!全く世話が焼ける!早く外に出るんだ!」

少し怒りを含んだ口調。



「大貫さんっ!屋上に誰かいたんです」

私は必死に食い下がった。



大貫刑事の顔色が変わる。

……なんだって?それは確かか?」



「は、はい!……多分」

確かかどうかは自分でも確信が持てていない。




「わかった、屋上を確認してくるから君たちはさっさと校舎から出ろ」

有無を言わせない口調で私たちを睨みつけた。



……わかりました」

私は大貫さんに背を向け、階段を下り、篠崎さんたちと合致して1階への階段に向かった。




頭上では大貫刑事が階段を駆け上がる靴音が響いている。



1階の廊下に到達した私たち3人は、同時に足を止めた。

どうやら3人とも同じ考えらしい。




篠崎さんと目が合った。


お互い頷き合う。

そして、たった今下りてきた階段を全速力で駆け上った。