独白の声 (5/14)
悲惨な話は淡々と進められた。
『姉の妊娠に伴い、金銭的な問題が浮上しました。母子家庭で十分なお金は用意できないでいたんです。
が、そこに救いの手を差し伸べたのは叔父でした。
叔父は姉に資金援助をしてくれたんです。
そして、姉は順調に身体の準備を整えてゆきました。
ある時、叔父は援助したお金を返済するように要求してきました。
それが初めからの狙いだったのでしょう。
姉も母も借金返済に苦心しました。
破滅は突然訪れました。
僕は叔父に引き取られ、母と姉から隔離されました。
その日以来、2人には会えていません。
そして自分が、本当は叔父の子どもであるという事を明かされました。
表面上、僕は困窮した母子家庭から救済されたように見えたでしょう。
しかし叔父にとって、僕は金稼ぎの道具でしかなかったのです……
僕は、特殊な性癖を持つ大人を対象に金銭で取引され、2度と普通の人間として普通の生活を送れなくなりました。
1年も経たないうちに僕はある富豪に買い取られ、養子となりました。
同時に、姉が当時付き合っていた彼の所在を突き止めていました。
その彼が、何ら不自由なく平凡に青春を謳歌していた事を知り、復讐を心に決めました。
姉は妊娠した事を彼に報告しなかったそうです。
それをいい事に彼は父親になる責任からまんまと逃れたのです。
セックスをした彼は彼女が妊娠する可能性を考えなかったのでしょうか。
そんなことはありえません。
知らぬふりをしたのです。
そうですよね?
聴いていますよね?』
スピーカーからの呼びかけに、教室の、いや学校中のざわめきがピークに達した。
______父親がこの学校の生徒の中にいるってこと?
______なんかヤバくない?
______復讐って名前晒すことだけ?
身勝手に飛び交う推測を遮るように、その名前が告げられる。
『あなたの無責任な行為のせいで、こんなに大事になったんですよ……』
焦らすような間。
静まり返り、張り詰めた空気。
『楢崎大地。お前の人生も滅茶苦茶にしてやる』
地獄から木霊するような声が校舎内に響いた。