この筋書きの結末 (30/31)

大貫は甘橋家の近くまで引き返して来ていた。
青野はどこで甘橋ゆきと接触したのだろう……



ピリリリ……
ケータイが鳴った。

画面にはまたしても『青野』と表示されている。
迷わず電話に出た。



「もしもし……

慎重に応対した。



『あ、もしもし。……青野です』



大貫は安堵のため息を吐いた。

「青野!心配したぞ、無事なのか?今どこにいる?」




『すみません……今は甘橋家にいます』



「そうなのか。わかった、すぐに行く」

なぜ青野が甘橋家にいるのかは不明だったが、大貫は急いだ。

甘橋家に行けばわかる。






10分後、大貫は甘橋家の居間にいた。
年季の入ったソファーに座り、甘橋ゆきの祖母と向かい合っていた。


隣のソファーには青野が気だるそうに腰を下ろしている。


話によると、青野はこの家の前で甘橋ゆきと接触したらしい。

彼女が家に入る前に呼び止め、同行するように提言した。
甘橋ゆきは抵抗なく同行の要求を受け入れた。

しかし青野は従順に後に着いてくる彼女に油断した。


隙を突かれ、スタンガンで一撃を入れられたのだ。
青野は甘橋家の裏手で倒れていた。

それを救ってくれたのが、甘橋ゆきの祖母・甘橋 佐和子だったというわけだ。






「それで……ゆきさんがどちらに行かれたか心当たりはありませんか?」

大貫は少しでも情報を得られないかと必死だった。
このまま引き下がることなど出来ない。
ただし事件の事には極力触れないつもりだ。



「心当たりですか。残念ですが、ございません……いつも自分の責任で行動しなさいというのが私の方針です」

甘橋佐和子は表情を曇らせながらそう言った。



「そうですか……

なんて無責任な、大貫はそう言いたかったが、自分にはその資格がないと気付き口を閉ざす。

話題を反らすため、別の質問を振り掛ける。

「そういえば他のご家族の方は……?」




「他の、と言いますと?」

とぼけている様には見えなかったが、佐和子は頬に手を当て首をかしげた。



「ゆきさんのお母様やご兄弟は……




大貫の質問に答えは返ってこなかった。
佐和子はこちらを凝視したまま、身動き一つしなかった。

何かを迷っているのだろう。
そして、ため息をひとつ吐くと、彼女は口を開いた。




「刑事さん、実を言いますとねえ……ゆきは、うちの子ではないんです」

呆れたような口調で佐和子は言った。
口元の皺が深くなった。



「それはつまり……




彼女は頷いた。

「恐らく……養子です。」




「恐らく、というのはどういうことですか?」

意味深な言い回しに大貫はおうむ返しした。




4年前、私の息子がこの家に連れてきたんです……。あのう、刑事さん。あなた方が、ゆきを追う理由を教えてくださいませんか」