この筋書きの結末 (20/31)
金本夫人はアルバムを青野に手渡した。
「拝見します」
青野は焦った手つきでアルバムを開いた。
大貫も隣から覗き込む。
『ぼくの天使』
1ページ目には、拙い文字でそう書かれていた。
青野が1ページ目をめくった。
その手は震えていた。
心臓が強い脈を打ち始めた。
胸に嫌な予感が溜まっていく。
「……っ!」
ページがめくられたと同時に息を飲んだ。
「これは……」
そこには数枚の写真が貼られていた。
どれも制服を着た女子の後ろ姿が写っている。
写っている背景の空の色から、下校時に撮ったと思われる。
どの写真に写っている女子生徒も同一人物のようだ。
……盗撮、いや、ストーカーだ。
大貫は金本夫人を見た。
気まずそうに彼女は目をそらし、言った。
「昨日、武雄の部屋を整理していたら見つけたんです……自分の息子がこんな事をしていたなんて……警察の方に見せようか悩んでいたんです」
大貫は頷いた。
亡くなっているとはいえ、自分の息子を辱めたくはないだろう。
「お察しします」
青野が次のページに進んだのを見て、再びアルバムに目を戻す。
次のページにも同じように数枚の写真。
今度は校内で撮られたものだった。
残念ながらそこに写る女子生徒も後ろ姿だ。
髪は黒くて、写真で分かるほど綺麗だ。
『彼女の髪のツヤは、天使の輪っか』
貼られた写真の下にコメントが書かれていた。
「この女の子は誰でしょう……」
青野は小声でそう言いながら次のページをめくった。
「金本武雄が殺害現場まで出向いたのは、手紙をもらったからだ。手紙の差し出し人が、この女子なら……」
大貫も声を潜め、推測を答える。
「それは、佐々木みのり、ですか……?」
2人で冷静に仮説を立ててから、アルバムを見る。
大貫は青野と顔を見合わせ首を振った。
後ろ姿だけでは何とも言い難い。
「もっと最後の方のページを見ろ……」
大貫が言うが早いか、青野がページを次々とめくっていった。
どの写真も1人の女子生徒の後ろ姿が写っていたが、ページが進むにつれてアングルが変わった。
後ろ姿から横顔にフォーカスしている。
しかし、横顔といってもそれが誰なのか判別出来ない角度だ。
被写体である彼女に気付かれないように撮っているのだから、仕方がないのかもしれない。
さらにページを繰る。
いよいよ次が最後のページというところまで目を通した。
しかし、肝心の被写体が誰なのかはっきりしない。
ここまでで1つ言える事がある。
金本武雄を殺害した犯人は、金本がストーカー行為をしていた事を知っていた。
この写真に写っている女子生徒が「佐々木みのり」なら辻褄が合う。
犯人は、金本が異常な好意を抱いている女子に成りすまし、誘い出したというわけだ。
……今さらそんな事が判明しても捜査の足しにはならないな。
青野もやや落胆したのだろう、最後のページを力なくめくった。
「……どういうことだ、これは」