この筋書きの結末 (19/31)

金本夫人は静かに語り始めた。


「恥ずかしながら、武雄のことをわかってあげられなかったんですよ。言うことを聞かないから、放っておいてしまった結果がこれなんです」


夫人の言葉に大貫は耳が痛かった。



「昔は、学校でどんな事があったのか話してくれる良い子でした。高校に入ってからでしょうか、家に帰っても部屋に引きこもっていて……どんどん距離が開いていくというか……」

沈鬱な面持ちで彼女は言葉を詰まらせた。



「金本さん、ご家庭に問題があったとは思えません。反抗期というのは避けては通れませんから……」

大貫は自分で言いながら、なんて説得力のないセリフだと思った。
ヨシキに反抗期があったのかすら知らない。




「そうなんでしょうかねえ……おかしな事を言うようですが、この子が亡くなって少し安心しているんです」

夫人の表情が幾分か和らぐ。
彼女の視線は遺影写真に注がれていた。

「もう……これで、死ぬまで一緒に居られる……って。私の心の中には素直な頃のあの子が居るんですよ……こんなのおかしいですよね、忘れてください」




大貫は何も答える事が出来なかった。




「すみませんね、お忙しいのにお引き止めしてしまって」

夫人が申し訳なさそうに頭を下げる。



「いえ、とんでもない。それでは我々は失礼させて頂きます」

大貫はもう一度遺影写真に向き直り、黙礼した。



「あの……」と青野が口を開いた。



何でしょう、と夫人が答える。



「……これは何ですか?」

青野は遺影写真の傍を指差した。


写真の前に骨箱が置かれている。
その影に隠すように、文庫本ほどの大きさのアルバムの様なものが見えた。

それは見方によってはお供えされているようにも見えた。




「ああっ……それは、あのう……」

金本夫人は明らかに動揺した。



「あ、別に無理にお答えして頂かなくても結構です。変わったお供え物だなと気になっただけですので」

青野が弁解した。
大貫も気に掛かったが、部屋の出口に向かおうとした。

しかし、夫人は何かを迷うような仕草を見せた後、そのアルバムを手に取って言った。



「何かの手掛かりになるかと思ったんですけど……もう亡くなってるんだから、いいわよね?」

最後の疑問符は遺影写真に向けられたものだった。







胸騒ぎがした。