この筋書きの結末 (17/31)
「奈子……」
娘に何と声を掛けてやればいいのか、わからなかった。
彼女の言うことにも一理あるのだ。
この一連の事件を起こすまでのヨシキには、何の罪もなかったのだ。
ヨシキはただ巻き込まれただけなのだ。
それが姉の妊娠や、母と叔父の関係……
様々は要因から、ヨシキは心に黒いものを沈殿させるしかなかったのだ。
その要因を作り出したのは、他でもない今ここにいる家族だ。
そして再び美月という関係の無い家族が巻き込まれるところだった。
大貫も責任を感じずにはいられなかった。
夏江も奈子も、それぞれが後悔の念に苛まれている。
これから先、自分たちがそれぞれ犯した過ちを、胸に抱え生きていかなければならないのだろう。
ヨシキはこの一連の事件をどのように終わらせるつもりだったのだろうか。
ただ、楢崎大地に関してはまだ直接的な被害は受けていない。
先ほど大貫自身が述べたことも、あくまでも推理だ。
被害が無いうちは犯行予告でもない限り警察は動かない。
警察が楢崎大地を護衛する事など出来ない。
それすらもヨシキの計算に思える。
我々家族に復讐する事が目的であるのなら、それは達成されたと言えるだろう。
この事件を通して生まれた『後悔』という感情は死ぬまで消えることはないだろう。
忘れた頃にふっと現れ、幸せな日常をじわじわと蝕むのだろう。
せめて美月にその影響が及ばないことを望む。
夏江がため息を吐き、立ち上がった。
美月を奈子に手渡す。
「……もう行くわね」
夏江は冷たく言い放った。
いつまでもここに引き留める理由はない。
大貫はそれに無言で頷いた。
外まで見送る気にもなれず、去っていく家族をただ見つめることしかできなかった。
「パパ、ありがとう」
奈子はそう言い残し、出て行った。
泣きはらした目でそう言った娘の顔を、生涯忘れることはない。
青野は見送りに行くと言い残し、部屋を出て行った。
気を遣ってくれたのだろうか。
大貫は天井を仰いだ。
しかし、溢れ出したものを止めることはできなかった。
生かされることは、死ぬことよりも残酷な復讐なのかもしれない……