この筋書きの結末 (6/31)
ポツポツと、また雨が降り始めた。
雨粒の一つが頬に当たり、大貫は我に返った。
階段を上った。
頼む……
頼むから無事であってくれ……
一気に駆け上がり、奈子の家まで辿り着く。
玄関扉のノブを回して引く。
______鍵が開いている。
素早く中に体を滑り込ませた。
「奈子っ!」
娘の名前を呼んだ。
しかし、返事はない。
靴を脱ぎ、部屋に上がった。
かすかに甘いような良い匂いがした。
「奈子……」
声は小さな部屋に虚しく響いた。
……この部屋を訪ねてきた若者は、おとりだったんだ。
そんな簡単なこともわからなかった。
24時間監視していれば、必ず犯人を押さえられると信じていた。
いつか必ず現れると期待していた。
我々の読みは間違っていないと……
和室の襖は開かれていた。
最後の望みを掛けて、中を覗いた。
「なこっ!」
大貫は倒れている細い身体を抱き起こした。
平手で頬を叩き、揺すった。
「奈子!しっかりしろ!」
彼女は薄く目を開けた。
「みづきは……」
「美月か?美月は……」
大貫は和室を見渡した。
物入れの襖は開け放たれていた。
そんな……
突然、奈子は大貫の腕から逃げ出し、玄関の方へ這っていった。
「奈子どこへいくんだっ」
「美月……美月……」
娘の名前を呟きながら、玄関の横にあった洗面所に入った。
後を追うと、奈子が洗濯機の中から美月を取り出したところだった。
「よかっ……た……よかった……」
彼女は涙を流し美月を抱きしめた。
美月は訳がわからないという顔を母親を見つめている。
「奈子、一体何があったんだ」
真っ赤になった目を大貫に向け、嗚咽を混じらせながら彼女は答えた。
「ヨシ……キが、来た、の」
犯人の出現を待ちわびていた我々は、まんまとエサに食らいつき犯人に隙を与えた。
ヨシキ……。
自分の息子が事件の犯人。
仮説だったことが、事実へと変わった。