この筋書きの結末 (3/31)
持っていたおにぎりを地べたに放り出し、青野の隣に移動した。
「誰だ、分かるか」
双眼鏡を覗いている青野の反応を待つ。
「男です。若い男。今、廊下を歩いています。横顔なので分かりづらいです……が、間違いなく奈子さんの家に向かっているように思えます」
双眼鏡から目を離さず青野は答えた。
「よし、じゃあ俺は配置に付いてくるぞ」
大貫は傍にあったバッグの中からインカムを取り出し、それを取り付けながら玄関に走る。
耳にイヤホンをねじ込み、ピンマイクを襟に取り付ける。
受信機のスイッチをONにし、ズボンのポケットにしまった。
大貫はビニール傘を持ち、玄関を飛び出した。
「聴こえるか、青野。様子はどうだ」
ピンマイクのボタンを押し、マイクに向かって話し掛ける。
すぐにイヤホンから青野の声が返ってくる。
『感度良好、聴こえています。不審人物は奈子さんの家の前で立ち止まりました。誰かわかりません』
「誰かわからない……?それはどっちの意味だ」
雨は少し弱まっている。
傘を差し、不審に思われない程度の速さで歩いた。
『こちらが全く把握していない顔という意味です。顔は見えましたが誰かはわかりません』
「……了解。あとは奈子の対応次第で判断しよう」
大貫は向かいの棟へ急いだ。
傘のおかげで、相手からは通行人に見えるだろう。
それにしても誰が訪ねに来たっていうんだ……
今は奈子だけが自宅にいる。
もちろん美月も一緒だ。
耳に青野の声が届く。
『不審人物は奈子さん宅の呼び鈴を鳴らしました』
大貫は急いだ。
棟の1階に到着し、階段を登り始める。
雨音が彼の足音を隠す。
こちらが全く把握していない顔……
青野はそう言った。
見間違いでなければ、容疑者のうちの2人は除外される。
楢崎大地と地村国彦。
我々は2人の顔を把握している。
今、この建物に訪れた人物は、どちらでもないということだ。
唯一、我々に今現在の顔が割れていないのは……ヨシキ。
大貫の鼓動を高鳴らせるのは、期待と恐怖だった。
『奈子さんから僕に着信です。……もしもし______わかりました。ご安心ください______大貫さん、知らない人だそうです』
「わかった、押さえるぞ。お前も来い」