過去、未来。 (3/6)
「ちむら、君」
彼の名前を復唱した。
ちむら、地村……
なっちゃんと同級生の男の子……
私の頭の中に4年前の記憶が蘇った。
しかし、目の前にいる青年と私の中の地村君は別人だった。
当時、地村君といえば身長は低く、髪は茶髪。
目元は前髪で隠れている。
少し暗い印象を受ける男の子だった。
現在の彼は身長は男の子にしては低いものの、身体つきはたくましくなっていた。
そして印象は爽やかだった。
髪を短く刈っているせいで、顔全体がはっきり見える。
こんな顔をしていたんだ、と思った。
一重まぶたの奥にある瞳は、吸い込まれそうなくらいの黒。
地味だけど整った顔だ。
「覚えて……ないですかね、僕のこと」
彼は苦笑いをした。
指先でこめかみを掻くその手の甲には血管が浮いていた。
私は慌てて首を振る。
「ううん。あまりにもたくましく成長してたから、驚いたのよ」
素直な感想を述べた。
「あ、そうですかね」
照れたように彼は、はにかんだ。
「わざわざお見舞いに来てくれて、どうもありがとう」
「いえ、とんでもないです」
「誰から私のこと、聴いたの?警察の人?」
「ええ。先生が事件に巻き込まれたって。なんか、大変なことになってますよね。先生が無事で良かったです」
表情は堅いけれど、彼は優しい目をしていた。
なぜか目頭が熱くなった。
「地村君、立派になったね」
いえ、と彼は謙虚に否定する。
そのあとお互いの事を少し話した。
かれが中卒で就職してからの話を聴いた。
一通り話し合った後、沈黙が続いた。
地村君は何度も目を泳がせたり、俯いたりした。
膝の上で掌を握ったり解いたりしている。
何かを話そうとしている。
と私は悟った。
彼はお見舞いに来ただけでなく、もう一つ何か目的があったのではないだろうか……
私自身、心当たりがある。
あの日、彼は見ていたんだ。
私と、なっちゃんのヒミツを。
私がなっちゃんに『お守り』を渡した瞬間を……