神出鬼没 (9/11)
「なんで地村が……?俺が会いに行ったときは何も言ってなかったぞ」
驚いたせいで声が裏返った。
奈子の居場所を知るために地村を訪ねたが、そんな話は聞いていない。
「それがあたしにも分からなくて」
「いつからなんだ」
勢い込んで聞いた。
「1年半前くらいからかな……叔父さんへの借金も返してくれたの。だから、今はあたしもママも風俗で働かなくてすんでる」
そう言って奈子は気まずそうな顔をした。
「……別にお付き合いしているわけじゃないだろう?」
「うん。あたしの妊娠のことを唯一知っている同級生だから、特別な存在ともいえるけど。叔父さんみたいに金を返せなんて言いに来ないし……」
危ない臭いがするな……
お金が必要なのはわかるが……
「彼は信用できるのか」
大貫は心底心配していることを表に出さないように、質問した。
奈子は自信満々に頷いた。
「信用できるよ、地村くんは」
「そうか、なら深くは詮索しない」
大貫は自分を納得させる意味も含め、何度も頷いた。
美月が再び和室へと引き返していった。
おぼつかない足取りだった。
「じゃあそろそろ行く」
大貫と青野は用意されていた飲み物を飲み干し、席を立った。
「気をつけてね、パパ」
「ありがとう。お前も絶対に油断するなよ。明日からこの家を監視するけど、いつも通り過ごしてくれ。 さっきも説明したが知らない人物が訪ねてきたら、居留守を使え。我々が駆けつける」
監視する件については先ほど説明していたので、鬱陶しがられるかと思ったが、奈子は真剣に頷いた。
大貫は奈子の自宅を後にした。
必ず犯人を捕まえる。
そして。
必ず、守ってみせる。