神出鬼没 (7/11)
「パパが捜査している事件の犯人は、あたしを探してる。しかも人を殺してまで探してる……」
奈子の目は虚空を見つめていた。
「……あたしは殺されるどころじゃ済まされないかもしれないね」
彼女はそう呟いた。
そして閉じられた襖の方へ目をやる。
大貫もつられてそちらの方を見た。
細く襖が開けられており、そこから女の子がこちらを覗いていた。
「……大丈夫、必ず守るから」
その子から目を離さずに大貫は言った。
「名前、何ていうんだ?」
少し空気を穏やかにするため、大貫は奈子の娘へと話題を向けた。
「ミヅキ」
「ミズキ……また女か男かわからん名前を……」
「ううん、そんなことないよ。パパこだわるもんねえ」
奈子は悪戯な笑みを浮かべた。
「漢字で書くとどう書くんだ?」
「美しい月、美月」
「そうか、それなら女の子って名前だけですぐに分かるな」
「パパ、ヨシキの名前のことも……というより、ヨシキに対して……」
和み始めていた空気に緊張感が混ざりこんだ。
奈子もそれを感じ取ったらしく、言い辛そうに口をモゴモゴさせた。
「御察しの通りだ……」
「どうしてなの、パパ」
答えを知っていて質問している、奈子の表情を見てそんな風に感じた。