神出鬼没 (5/11)
「……そんなことが……誰かが私を探してるってことだよね」
一通り話を聞いた奈子は事情を整理するように呟いた。
中学の時の担任だった佐倉先生が襲われたことは伏せておいた。
「そうなんだ。だから犯人がお前の元を訪れる時を狙うしかないんだ」
向かい側のA棟で監視していることや、知らない人が来たら居留守を使って時間を稼ぐように指示を出した。
奈子は素直に従う様子だった。
「パパ、絶対に安全なんだよね?」
奈子はチラリと閉じられた和室の方に目をやった。
娘の身の心配をしているようだ。
「心配するな。大丈夫だ、絶対に」
大貫は娘の目を見て断言した。
犯人は奈子を探していた。
関係の無い人を巻き込んで……
……いや、殺してまで探そうとした。
そこまでして奈子を探していた。
犯人の目的は何なのだろうか。
ひとつ言えることは、犯人が恨みを持っている相手は、白神奈子ということだ。
そして犯人が奈子と接触するとき、事件が起きる。
「ねえ、パパ。誰が犯人か予想出来てないの?あたしに恨みを持っている人って……思い当たるのは……」
「予想、か。疑っている人物はいる、根拠は刑事の勘ってやつだ」
それを聞いて奈子は大貫の目をじっと見つめてきた。
「パパ……」
彼女は慎重に口を開く。
「ヨシキが今どこで何してるのかは……知らないの……?」
ヨシキ……
大貫は息子のことを思い浮かべた。
今回の事件を調べれば調べるほど、奈子の周囲の人物に繋がっていく。
しかも事件の起きた高校には奈子の元恋人、楢崎大地が在校している。
奈子に関する人物で行方がわからないのは、ヨシキ、だだ一人……
行方がわからないという点が、ヨシキを疑う理由だった。
奈子の口からヨシキの名前が出てきたということは大貫の勘も外れていないのかもしれない。
「ヨシキの事はほとんど何もわかっていない……」
「そっか……。ヨシキはあたしを恨んでる、それは間違いないと思うの……」
奈子は自分が妊娠したと判明してからのことを大貫に話した。