神出鬼没 (4/11)
「久しぶりだな」
4年ぶりにだというのに、大貫の口からはそんな軽い言葉しか出てこなかった。
「うん……どうしてここに?仕事できたの?」
不信感を抱いた目で奈子は問いかけてきた。
「ああ、捜査でな。お前の住所は地村君から教えてもらった」
「ふうん、そうなんだ……」
奈子は曖昧に頷く。
「ちょっと話、出来ないか?」
大貫はドアチェーンに視線を注ぎながら、招き入れてほしい事を意思表示した。
「あ、うん。いいんだけど……」
彼女は何かを確認するように部屋の中を振り返る。
「子ども、いるのか」
自分の動揺を悟られないように尋ねた。
大貫のそのひと言に奈子は反応した。
彼女と目が合う。
「……それも知ってるんだね。わかった、待ってて」
そう言うと彼女は一旦扉を閉め、再び開けた。
ドアチェーンは掛かっておらず、大貫たちを招き入れるように大きく扉は開かれた。
「どうぞ、散らかってるけど」
「ああ、すまない……失礼する」
大貫は玄関に上がるなり、こちらを見ている幼児に気がついた。
居間へと続くドアを細く開け、そこから子どもがこちらを覗いていたのだ。
奈子が居間へと進む後に着いて行く。
ドアの向こうにいた子どもは逃げるように姿を消した。
案内された居間は必要最低限の家具しかない寂しい部屋だった。
唯一の色といえば、ピンク。
流し台に置かれた食器は何かのキャラクターがプリントされている。
その色とデザインから、奈子の子どもが女の子であることを知った。
カーテンの無い窓の外には、ピンクのパジャマが風に揺れている。
黄ばんだグレーの冷蔵庫にはキャラクターのシールが何枚か貼られている。
居間の隣には和室があるようだ。
今は障子がピシリと閉められている。
奈子の娘はそこに隠れているらしい。
「パパ、座って」
奈子がガラスのコップに麦茶を注ぎ、テーブルに並べた。
礼を述べ、椅子に座った。
青野も席に着いた。
「夏江はどうしてるんだ」
大貫は元妻の名前を口にした。
「ママは、多分これかな」
奈子は手で何かを掴み、捻るようなジェスチャーをした。
パチンコか……
「……そうか」
ため息混じりの返事を返す。
「で、パパ達は何しに来たの?」
奈子が流し台にもたれるように立ち、本題を切り出した。
大貫は奈子を訪ねる事になった経緯を簡潔に説明した。