探偵部の活動日誌② (10/13)

「奈子が通っていた中学校で、当時担任をしていたサクラという教師に会ってきた」



「さ、桜、ですか……?」

聞き慣れない名前を聞き返してしまった。

刑事は机の端に置いてあった紙を手繰り寄せた。
それは例の「依頼文」をカラーコピーした紙だ。
空いているスペースに何事か書き込んで、僕に見せてきた。



そこには「佐倉」と書いてあった。
ああ、なるほど。そういう漢字か。


「わざわざありがとうございます」

僕は頭を下げた。



「いや、君にとっては初めて聞く名前なんだから、書いた方がわかりやすいだろうと思ってね。それで佐倉先生には奈子の現在の所在を知っているか尋ねてみた。が、答えは、知らない、だった。その後、先生が知る奈子の素顔を話してもらった。そして……


大貫刑事はそこで呼吸を整えてから言葉を続けた。


……そして、奈子が中学2年で妊娠し、それが原因で学校を中退したという事を知った。 情けない事に、私は佐倉先生に話を聞くまで知らなかった……自分の娘に起きた悲劇を」



「そうだったんですね……

すると、探偵部にて依頼文を読んだ時の衝撃は刑事の心を掻き乱しただろう。




「奈子が中退して以来は誰も連絡が取れなかった、らしい……佐倉先生には知っている事を全て話してもらった。当時、奈子の同級生であり恋人である彼氏、」

そこで言葉を止め、先ほどのように紙の余白に名前を書いた。

「佐倉」と書かれた下に「楢崎大地」と文字が並んだ。




「楢崎大地、奈子の彼氏。つまり奈子のお腹の子供の父親だ……篠崎君、君は彼を知っているね」



楢崎……大地……




「知っているというか、同じクラスにいます……楢崎大地」



そうか、白神奈子の同級生となれば、現在僕と同じ18歳。
高校3年だ。

同姓同名などではない。
不意打ちを食らったような気分だった。

楢崎とはあまり話した事はないが、こんなに身近に関係者がいたなんて……



「そう、私も驚いた。この高校で起きた事件を調べに外部へ出たにも関わらず、再びこの高校の生徒へと矢印が返ってきた。ただ楢崎君とはまだコンタクトは取っていない」


「なぜですか?」



「彼が犯人ではないとは言い切れないからだ」



僕は曖昧に頷いた。
もう僕のような一高校生が首を突っ込んで良い話じゃない。


「あれ……?じゃあ奈子さんの居場所は誰が教えてくれたんですか?」



「実はもう一人、奈子と仲良くしていた人物がいた。彼は高校へは進学せず、就職を選んだようだ」

大貫刑事は紙にもう一人の人物の名を書き連ねた。

「地村」という人物らしい。

白神奈子、楢崎大地、地村。
刑事は、この3人はいつも一緒だったと説明した。

『依頼文』をコピーした紙の余白には、3人の名前が並んだ。



「地村は職を変えていた事もあり少々手こずったが、ついに彼の居場所を突き止めた。そして彼は奈子の行方を知っていたんだ」



「えっ……奈子さんが学校に来なくなってから誰も連絡が取れなかったんじゃ……



「実は地村だけが奈子と連絡を取り合っていたんだ」



「どうしてですか……