君のためなら (21/26)
「発見する前日に光を見たんだ」
さっきから話に出てくる「光」。
日村君によると、その光がこの部室から見えたのだという。
「4階のトイレの窓を透けて、こうピカッと光って……どうしても気になったから次の日の朝見に行こうって思ってて」
「気になっただけならそんなに早く学校に行く必要なかったんじゃないの?」
「光ったのは一瞬だけだった。でもその時、トイレの窓に人影が映った気がしたんだ」
日村君は俯いて答えた。
「人影?」
私も先輩2人も声を揃えて尋ねた。
「何かすごく嫌な予感がして……何か事件だったり、なんて思って朝見に行ったら本当に大変な事になってて……」
まとまりのない話し方ではあったけど、言いたい事は何となくわかった。
トイレの窓に映ったという人影は金本君のものだったということか。
「そうだとしても学校に1番乗りまでしなくてもよかったんじゃないか?」
山科さんが尋ねる。
「……それは、汚名返上のため、です」
「汚名返上?」
「僕は先輩方から任せられた任務をしくじりましたから。何かスクープになるものはないかって必死になってたんです」
「日村、お前そんなに気にしてたのか。俺たちはお前の味方だぞ。それに大した任務じゃなかったしな」
そう言って山科さんは篠崎さんと顔を見合わせ頷き合った。
私は彼らの会話にある「任務」という言葉が気になっていた。
なんの事だろう。
「あの、任務って何ですか……?」
行き詰まった空気をなんとかしたくて思い切って質問した。
「ああ、依頼があったんだよ」
篠崎さんが答える。
「依頼?」
「そうそう、これ。コピーだけどこんな手紙が探偵部に届いてね」
1枚のA4紙が手渡された。
そこには文章が書かれたメモ用紙がカラーで印刷されていた。
そこに書かれている文章に目を通す前に何かが私の中で引っかかった。
このメモ用紙……どこかで……
メモ用紙に一定の間隔で引かれている薄いピンク色の罫線。
……あっ。
みのりがこれと同じメモ帳を使ってた……
あれ?
そういえば金本君を現場まで誘い出した手紙には、みのりの指紋が着いていた……
手紙に使われたメモ用紙が、彼女のメモ帳から破り取られたものだったから……
だからみのりは当初容疑を掛けられた。
そしてこの「依頼」に使われているメモ帳が……
その時、パズルのピースがパチリとはまったような感覚になった。
私の中で離れていたもの同士が繋がった。
私は呼吸を整え、はっきりとした口調で探偵部3人に言った。
「このメモ用紙、金本君を誘い出す手紙に使われたものと同じです」
静かな校舎に最終下校時刻を知らせるチャイムが鳴り響いた。