君のためなら (14/26)

「おい、そこまでしなくても……」




誰かが心配そうな口調で行ったのが聞こえた。

私はトイレの入り口の側に立ち、声に耳をすませた。





「いいじゃん、実演してくれてるんだから」



「そうですよ、僕も言葉で説明するより楽です。口下手なものでムヒヒ」



「まあそうなんだけど……第三者から見たらヒムラをいじめてるみたいだからさ」



……ヒムラ?
もしかして同じクラスにいる、あの日村君かな……?



「僕は構いませんですよ、シノザキさん」



「もういい、わかった。続けてくれ」



「で、とにかくカネモトはそういう風に死んでたんだな?」



カネモト……

声の数からすると、トイレの中にいるのは3人だろう。
そしてこの間の金本武雄が死んだことについて話している。


私は興味を持たずにはいられなかった。



「そうです。便器の前に体育座りのような格好で、両腕はこう、ダランと。頭はこう便器にもたれるように天井を向いて……」



「ちょっ、待て!日村、汚いぞ!」


「シノザキ、声がでかいぜ。……こうやって見るとあれだな、床屋さんで洗髪してもらう時みたいな格好だな」


「そうですね。そして顔は水で濡れてました」



「なるほど……殺害方法はなんだろう。首を締められた痕跡はなかったんだよな?」



「恐らく……特に何も気づかなかったですから」



「濡れてたってのがヒントだな」



しばし沈黙。

一体誰が話しているんだろう。
私は好奇心を抑えられなかった。



「とりあえず状況はわかったな」

まだ会話は続いている。



周囲に誰もいないことを確認して、私は男子トイレの中を覗き込んだ。



「あとは部室で考えよう……んっ?誰だ?」


最悪のタイミングで、中にいた1人と目が合ってしまった。
相手はちょうどトイレの入り口に向かって一歩踏み出そうとしていたところだったのだ。





やばい……バレちゃった……!



私は素早く踵を返し、一目散に階段へ向かった。



「待てっ!おい日村!ヤマシナ!あの子を追いかけるぞ!」





どうしよ……
とにかく逃げるしかないか……



「誰だっ!スパイか!」



私はスパイなんかじゃないのにっ……!
階段を2段飛ばしで降りた。



どうしよどうしよ……





「きゃっ!!」





私は焦るあまり、階段で足を踏み外し、尻餅をついてしまった。