君のためなら (13/26)
「あっ、ごめんなさい。これといって特に大事な話はないの。ただ小原さんと話したかっただけよ」
眉尻を下げる甘橋さんは美しかった。
「そ、そう……」
余計に何を話せばいいのかわからなくなった。
「小原さんは、あの先輩のことどう思ってたの?」
あの先輩、とは長居先輩のことだ。
やっぱり土曜日のデートの話か……
甘橋さん相手にとぼけるのも無駄かな……
「みのりの彼氏に紹介されて、ちょっとLINEしたりして楽しい人だなって……」
「それはつまり?」
意地悪な目で彼女は問いかける。
「それはつまり、好きだった……かな。ちょっとだけ」
「そう、なら良かった。あの先輩はやめておいた方が良いわ」
なんで甘橋さんにそんなこと言われなきゃならないの……?
少し上からものを言われたようで、苛立った。
「どうして?」
私は平然を装う。
「下心が丸見え、っていうのかな。噂通りサッカー部の人たちは軽いなっていうのが正直な感想」
耳に髪を掻き上げる彼女。
自分が可愛いのを知っている仕草。
「……ふうん」
もう返事をする気力がなかった。
私と仲良くなりたかった、なんてよく言えたな……
甘橋さんが何を考えているのかわからない。
「類は友を呼ぶってことね……」
また窓の外に視線を流し、意味深な言葉を彼女は残した。
「小原さん、愚痴を聞いてくれてありがとう。先に帰るね」
返事もできない私を置いて、甘橋さんはバッグを肩に掛け教室を出て行った。
はあ……
ため息が口をついて出た。
しばらくしてから教室を出た。
廊下を歩き、階段へ向かう。
男子トイレの前をを通り過ぎた。
中から何やら議論をしている声が聞こえてくる。
少し気になり私は耳をすませた。