0001 港 タキオ (8/19)
いつもなら居酒屋で少し飲んでからキャバクラに行くはずだが、その日は違った。「直接キャバクラに行こう」と友人は言い出した。
おごってもらう身なので、違和感はあっても異存は無い。僕自身、行ったことがないキャバクラへ行く事になった。
路面店のその店は、その地域では高級な方のキャバクラだ。
おごりでもない限り、学生の僕は行けない。
ただ女の子がみんな芸能人の様に可愛いとか、ブスが1人もいないとか、居心地がいいとの噂だけはよく聞く。
場末の大抵の店の前にはボーイが客引きをしているが、この店はしていない様だ。客にこびない様子から、客に困らないのだろうと思った。
店内に入った瞬間。
『 キュイ──ン 』
目を麻痺させる暖光と共に、口の中の器具が歯を震わせる振動を発するのを感じた。
振動は数秒で終わり、僕は「いらっしゃいませ」と言う気取ったボーイの声で我に返る。
なんだ今のは。
生意気なクラシックが流れ、嗅いだ事の無い甘い香水の匂いが、僕の脳にキャバクラへ来たのだと実感させた。
振動も気になったが、気になるのをそのままに、景色と匂いに夢中になる。
ボーイの「ご指名の方は?」という問いに友人は意外な発言をした。
「ああ ジュリアちゃんいる?」
一瞬で理解した。
こいつは自分の目当てのキャバ嬢に会う為に、僕を誘ったのか。