0014 大田 ユウガ (15/60)
僕の目の前に立っていた黒髪の女が、少し大きめの声で言う。
「大丈夫ですか?具合が悪いようですが」
ゾッとするほど濡れた声だった。
初めて正面から見た、前に立っていた女。
特徴的なのは真っ白な肌に、真っ黒な髪。
20代真ん中ぐらいで、メガネをかけている。
「次の駅まですぐですから」
女の声に、周りの乗客が僕に注目するが何も言ってこない。
白々しく、貧血で倒れた僕を介抱する親切な他人のフリをしているんだ。
けど眼鏡(がんきょう)の先の瞳は細く、恐ろしいほど冷たかった。
メガネの女はいたわりながら、小声で僕に言う。
「具合はいかが?」
「はあ は?」
言われてみれば胸が熱い。
視界もグルグルして今にも吐きそうだ。
体が、熱い。
今まで話していた後ろの"頭のおかしい女"は何も言わず、目の前に立っているメガネの女が濡れた声で続ける。
「実は初めの時点で注入しちゃってるの」
初めの時点だと?
だが、注射器の中身はサコシニルコリンだろ。
即死の筋弛緩剤じゃ、ないのか?