0013 品川 ゼロ (51/103)
黒塗りの高そうな車で、窓から運転席に人がいることが分かります。
けど、リクライニングして席を倒してる為に顔が分かりません。
分かることは、車に乗っている人物は、スーツを着た男の人だということです。
僕が車を見ていると、少年も車を見ました。
「多分 あれだ」
僕が小声でそう言うと、少年は「うん」とだけ返しました。
やっぱり無駄にドキドキする。
怖い。帰りたい。よく分からない。
僕は、それこそ子供みたいな感情を抱いていました。
そう、よく分からないんだ。
状況が理解できない。先が読めない。
少年と出会ってからの今までだって、よく分からないし思い出せない。
そんな断片的な不安が、僕の中で岩の欠片のように浮かび上がるんです。
横断歩道を渡り切った所で僕が動けずにいると、少年が車に向かって歩き出しました。
「あ」
僕は小さく声を出し、少年を止める素振りをします。
素振りだけ。
思いきり少年を止める勢いなんて、今の僕には無いんです。
可能なら、そのまま少年を放って逃げてしまいたい。
頭の中には、そんな発想までありました。