0013 品川 ゼロ (11/103)
「ひゅうほう ひゅうほう!ひゅうほう!」
僕に入れ歯の様な金具を渡すと、おじさんはひたすらそう言いました。
ひゅうほう?
分かりません。
「あの 救急車が来ました もう大丈夫ですから!」
「ひゅうほう!ひゅうほう!」
僕が何を言っても、おじさんは同じ言葉しか言わなくなりました。
そして、震える指でサイクリングロードに植えられた木を指さします。
おじさんがさした木は、まだつぼみしかなっていない、桜の木でした。
「ひゅうほう!」
おじさんは僕に必死で何かを伝えようとしていますが、分かりません。
ひゅうほう。
ピーポー?
救急車のサイレンのことかな。
すぐに着いた救急車から、3人の白衣を着た救急隊員の人が出て来て、手際良くおじさんを救急車に運びました。
けれど救急隊員達の様子は変でした。
おじさんの名字らしき名前を、何度も呼んでいるんです。
簡潔に状況を伝えてから、隊員の1人に聞いてみました。
「あの人 有名な方なんですか?」
「有名も何も 」
隊員の1人は、僕にも分かるほど動揺した様子で答えました。
「あの人はこの近くにある病院の 医者なんですよ」
「え?」