0013 品川 ゼロ (10/103)

「あの コーラなら」



僕がカバンに入れてあったコーラを取りだそうとすると、壮年は握った手を掲げてきました。



「ほれをを」



どうやら、何かを僕に見せるか渡すかしたい仕草です。



僕はおじさんに近寄り、おじさんに手を差し出すと、震える手から固い何かを渡されました。



僕の手の平をチクッとさせるそれは、一瞬刃物かと思いましたが、入れ歯みたいな月形の金具でした。



それより、近くで見るおじさんの顔はその後の人生でも見ることのない、忘れられないほどのものでした。



涙と鼻水とよだれをたらし、口の周りのヒゲには嘔吐した汚物がついています。



目の焦点は上を向き、口からは不自然にダランと舌が出ていました。



「えふ ひー えふ」



うまくしゃべれないのは、舌が口の中に入らなかったからだったんです。



「はたひを はたひををほっへふれ」



はたひ?かたき?



仇をとれ?



意味が分かりません。



ウウー ウウー



遠くから、救急車のサイレンが聞こえ、見晴らしのいい景色の先に赤いランプと白い車が見えました。