0013 品川 ゼロ (9/103)

「ひぎい しくしょう はへはあ ふぁへはあ」



男は確かにそう言いました。



まるで入れ歯を無くした、お年寄りみたいなしゃべり方です。



「あの」



僕も対応に困り、様子を伺いましたが、すぐに異臭に気付きました。



嗅いだことのあるその臭いは、公衆トイレで嗅いだ事のあるような便の臭いでした。



お尻のあたりのスーツは、泥を付けたように色濃く染まっています。



壮年の男性は、服を着たまま脱糞していました。



そしてモゾモゾと動いて、立ち上がろうとする仕草を見せますが、うまく立てない様子です。



時間はまだ午前6時。



ただことではない雰囲気と異臭に、かなり引きました。



僕は事態の雰囲気を読み、すぐに携帯に入れた110を119に変え、電話しました。



電話に出た人には簡潔に場所だけ伝え、ありのままを話しました。



電話は30秒もしない内に切りましたが、おじさんの様子は相変わらずです。



「ふぁへたあ ひふしょう まへたあ」



発している言葉はろれつが回らない様子で、分かりにくいものでしたが、イントネーションでなんとなく伝わりました。



負けた?ちくしょう?



「きひい きみひい」



そして、僕に気付いたおじさんは初めて話しかけてきました。