0012 墨田 ズシオウマル (7/71)
人生の大半をかけて完成の手前まで行った研究が、一晩で信頼する弟子に奪われたのだ。
学徒には笑顔を見せていたが、常人なら卒倒する程の感傷だっただろう。
その晩、私は墨田教授の家で、彼の酒に付き合っていた。
酒というものは、私は嫌いだが、その晩、墨田教授は私にも酒を勧めた。
教授は残った1つのSCMを触りながら、今までの苦労を私に語った。
SCMは唾液からDNAなるものを判別し、さらに口内の微弱な電力を蓄電させる機能がある。
それにより、数年間は充電を必要としない作りだそうだ。
さらに宿主の意思を、服従させた側により強く伝える効果もあるという。
試作段階だったが、人間側と動物側の感情をより共有させる機能があったのだ。
最低限の機能で、かつ安全に、動物の脳に作用する機械。
だがまだ試作段階のSCMを、世田谷に奪われてしまった。
服従させる効果こそ立証済みだが、副作用が起きる可能性が高い。
最終段階は安全性の研究で、初めてSCMは完成するはずだった。
未完成のSCMは、宿主に有害な副作用を起こす可能性が高い。
もし、世田谷が未完成のSCMを他人に使用した場合、どれだけの人間に危害が及ぶか。
墨田教授は、その節を心配していた。