0003 杉並 ルシエ (14/32)
あの日のことは誰にも話していない。
話したら警察に行くことになり、親や会社に迷惑がかかる。何よりも、性的な部分を友達ならまだしも、他人や親族に知られる。それは恥ずかしさを越えた、羞恥だしさ。
あたしはこのまま、誰にも話さずに墓までこの傷を持って行くのだろう。そう思っている。
こんな覚悟をさせた、あいつらは今頃どう生きているのだろうか。時々思うが、その度に考えるのを辞めるようにしている。
そんなある日の休日。
あたしは隣町のスーパーに行った。
普段は行かない所だけど、その日は特売で何かと安い。
そこで、偶然あいつに会った。
初めにあたしをレイプした男。
見た時は目を疑った。けど確かにあいつだ。
次に視界の周りが白くなるような感覚になり、目元が果てしなく熱くなる。
今、あたしの白目は真っ赤に充血してるのではないかと思った。
あいつは、1人でカップメンのコーナーにいる。ソバかウドンを買うかで、悩んでる。
舌を噛み、血の涙を流すほど憎む相手の、そんな呑気な光景に、下腹部が爆発するほど熱くなり、くやしさで涙が出そうになる。