0003 杉並 ルシエ (13/32)

一通り説明書を読み終わると、あたし はビニール袋からSCMを取り出してみた。


針金と柔らかい樹脂でできた、小さく細い器具。所々に、パソコンの中身にあるような、小さなチップがある。


こんな物でどうやって人間の行動を制御するかなんて、想像もできない。


あたしはSCMを袋と箱に戻し、机の上に置いた。


あー。楽しかった。


説明書を読んでる間は夢中になれたけど、こんな物、実際付ける訳がない。


付けて偽物でも馬鹿馬鹿しいし、本物でも奴隷になるリスクを伴う勝負なんてできる訳がないしさあ。


そのうちSCMの箱は、ヒールの箱と一緒にクローゼットの中へとしまいこまれた。


その存在すら忘れた、1ヵ月後。


あたしは会社にも出勤するようになり、新しい携帯も買った。バッグやサイフに入っていたカードなども無効にする作業もした。


相変わらず眠る時にはあの日のことを思い出し、何か重いものを抱えた様な生活だが、日常生活はなんとかやっていける。