0010 文京 ゼンイチ (89/90)
「嫌だね」
俺がそう言うと、男はライターを胸ポケットにしまい、メガネを上げた。
「じゃあ力づくだ」
そう言うと、男はそのまま犬に向かって走り出した。
その行動で理解できた。
こいつ、犬を奴隷にして、俺も奴隷にする気だ。
犬は驚いた様に逃げ出した。
俺も一気に走る。
俺が今、犬の奴隷だという現実は受け止めてやる。
だが、この場から逃げれば、犬の奴隷は帳消しになるんじゃねえかって思った。
相手は犬だ。俺から危害を与えることはできないが、命令の仕様も無い。
要はズシオウマルから離れればいいんだ。
そう思った瞬間。
「アオン!」
俺は立ち止まった。
「アオン!」
止まれだと?
ズシオウマルは今、止まれと言った気がした。
「アオン!オン!」
ズシオウマルがそう鳴いた瞬間、俺はメガネに体当たりをした。
メガネはその場にはっ倒れる。