0010 文京 ゼンイチ (86/90)
SCMが鳴った瞬間、ズシオウマルに対する敵意が一気に冷めていくのを感じた。
冷めるどころか、今まで以上の緊張感を感じ、一言で言うと、この犬が恐ろしくなってきた。
「ガア!」
「ひぃっ!」
ズシオウマルが吠えた瞬間、俺の体が氷り着く。
犬はただ唸り、俺を見ている。
俺は思わず犬から目を反らしていた。
何だよこれ。
この犬に逆らえない。反抗できない。
俺は薄々気付いてはいたが、その答えを認める訳にはいかなかった。
「あららら 犬に負けた訳だ」
突然、俺の恐怖の答えをあっさり口にした男の声が聞こえた。
声の方を見ると、道の先に、スーツの男が1人立っていた。
さっき、車ん中にいた奴だ。
「えっと ゼンニチくん?残念だねえ 犬の奴隷になっちゃった訳だ」
「はあ ああ?何だよ テメーは」
その男は、メガネを少し上げた。
犬は俺たちの様子を伺うように、その場で静かに立っている。
もう、俺に向かって来る様子は無かった。
「俺?俺の名前なんて今はどうでもいい 犬の奴隷は嫌だろ ゼンニチくん」
この野郎、わざとか?
「つうか俺はゼンイチだ」