0003 杉並 ルシエ (6/32)
初めは優しかったけど、数分でそいつらがニヤニヤ笑っている事に気付いた。
山を下りきる前に突然車は止まり、後部座席のあたしの隣に座る1人が、あたしを押さえ付け、運転席の1人もすぐに後部座席のドアから押さえ付けてきた。
助手席に座る1人だけが「やべーよ」「やめようよ」と言っていたが、決して力ずくで助けてくれる感じではなかった。
結局また された。
最後、偉そうに「送ってやろうか」と言われたが、もちろん断り、3人の若者が乗った車が走り去る。
あたしはその場で座り崩れ、動けないでいた。
涙は出ないけど、きっと動物みたいに唸っていたと思う。
辺りが明るくなる手前、女の子達が乗った車に拾われた。
その子達は親切で、何も言わなくても状況を理解したのか、あたしを警察に連れて行こうと必死に説得してくれた。
車内は暖房が効いてて、貰ったブランケットがたまらなく暖かかったのをよく覚えている。
けど、あたしの頭の中には両親の悲しむ顔が浮かび、ひたすらに警察は断った。
両親や親戚に対する恥ずかしさや、迷惑をかける申し訳ない気持ちが、ただ膨れ上がっていた。
家まで送ってもらい、シャワーを浴び、ベッドに入り寝て起きて。
いつもの癖で、まず携帯を手に取ろうとしたけど、携帯が無い。
携帯はバッグの中で、バッグはあいつの車の中だった。
夢じゃなかったんだ。
そこで初めて、大声を出して泣いた。
汚れた。汚れた。汚れた。
あたしの名前は
杉並 ルシエ 24歳。
朝日輝く爽やかな朝。傷を負った、汚くて新しい人生が始まった。