0010 文京 ゼンイチ (59/90)

いかにもパンチしますって姿勢で、拳を掲げてやがる。


俺は爆発的に、足に力を込めた。


この野郎、ハエみてえに叩き潰してやる。


腕より足の方がリーチがあるんだよ。


俺が足を出した瞬間。


シンノスケはそのまま、俺の右を走り去る。


「は?」


「逃げるが勝ち!ばいねー!」


「んの野郎!」


俺は考えるより先に、走って奴を追った。


だが思いの外あいつは足が速い上に、視界の先で道沿いの塀を越えやがった。


「ああ はあ はあ」


俺は途中で走るのを止め、呼吸に専念する。


ちくしょう。すげえ苦しい。


腹に鋭い痛みを感じ、心臓がバクバクする。


あの野郎、次会ったら覚えとけよ。


俺はゆっくり歩きながら、ルシエの家に向かった。


とりあえずシャワーを浴びてえ。そういや3日くらい風呂入ってねえな。


そんな事を考えながら、ルシエのアパートのインターホンを押す。


「はい」


インターホンの先から女の声。ルシエだ。


「俺だ 開けろ」


「あ はい」


ガチャ


ルシエの返事と同時に、ガラスのドアが開いた。