0009 中野 タイジュ (43/65)
普通、犬は敵意を表現する時など、吠えるイメージがあった。
しかしズシオウマルはあまり吠えていない。
最低限の唸り声をあげ、勢い良くジャンプしてはゼンイチの首をめがけて牙をむく。
吠えない事に少し違和感を感じていたが、ズシオウマルにはその辺の犬とは違う、人間に近い感性と知能を感じた。
ジュリアと中央の様子はおかしいし、ズシオウマルの戦いを見ていると、夢中になってしまう。
けど今の俺にとって1番重要なのは、シヲリさんの解放だ。
電信柱の裏から、シヲリさんの足や手が少しだけ見える。
近付いて、今の内に助け出す手もあるが、直後に思い出す。
今、俺はジュリアと勝負中だった。
勝負の受付も申し込みもできない。
この場で勝負ができるのは、中央だけだ。
「本当に勝負は降りられないの?」
フロントガラスの先を見続ける、ジュリアの横顔に聞いた。
「ええ」
ジュリアは俺を見もしないで、ただ返事をする。
「今ならシヲリさんを車に乗せて逃げられる 中央さんがシヲリさんに勝負を申し込めば」
そこまで言うと、中央が俺を見た。
「それは可能だが あの男に他の者と勝負をするなと言われていたら面倒だぞ」