0009 中野 タイジュ (38/65)
ジュリアの言葉からすぐに、車のライトの先に人影が見える。
大きな男の後ろ姿と、電柱の影から伸びた足。
見覚えのある黒のパーカーに、ジーンズの後ろ姿。
ジュリアが確認するように俺を見る。
俺は鼓動が高鳴り、泣きそうな緊張と怒りを感じていた。
そして俺は無意識につぶやく。
「間違いなく あいつがゼンイチです」
電柱の影にいるのは、恐らくシヲリさんだ。
たった1時間ほどしか離れていないのに、あれから数日経っている気がするのは、気のせいだろうか。
シヲリさんは座っていたが、ここまで移動したのなら無事に歩ける状態だろう。
「っらあ!」
俺のシヲリさんに対する思考の直後に、ゼンイチが叫び、拳を構えていることに気付いた。
後ろに俺達が乗る車のライトを感じているはずだが、夢中で何かと戦っている。
ジュリアも中央も、気付いているはずだ。
ゼンイチはすでに、ライトが届かない暗闇の先の何者かと戦っている。
そして、不意にライトの光にゼンイチの背中の向こう側の相手の姿が映る。
「ガア!ガウ!」
人じゃない。
「いぬだ」
ジュリアのつぶやきの通り、ゼンイチが戦っていたのは犬だった。