0002 渋谷 サチ (13/18)

そう、この男。タキオの前だと無条件に緊張するんよ。


ただ、記憶や感情はあまり変わらない。言うことは聞くけど、好きじゃない。


むしろ相変わらずの嫌悪感がある。


「はは すげえ これ すげえ!」


タキオは説明書を一通り読み終わると、そう言いながらウチに近づく。


「お前 俺の奴隷なんだ!」


「はい たぶん」


ウチは訳分からないけど、とにかくうなずいた。タキオは布団の上に来ると、ウチに顔を近づけ言う。


「口開けろ」


ウチは黙ってアーンと口を開ける。


「はは お前が付けてたんだな」


タキオはウチの口の中に指を入れ、目で覗き込みながら上の歯の裏にある矯正器具を確認した。


「おぇ」


ウチがえずくと、タキオは「ははは」と笑いながらまたタバコを吸う。


普段だったら、ブチ切れて帰るし、怒りの感情もあるが、何も言えん。彼に不快な思いをさせてはいけんと、何か衝動みたいなものが働く。


「訳が分からないだろ」


「はい」


訳が分からん。


「渋谷サチだっけ?お前説明書読まなかったのか?」


名前くらい覚ええや。


「はい」


「読まずにこんなもん口に入れたのか?」


「はい」


「お前 バカだな」


お前もな。