0002 渋谷 サチ (6/18)

「今日11時出勤なのに2時間も早出だよ 最悪なんだけど」


ウチの愚痴を聞くヘア師は、髪を巻きながら「ねー」とか適当にあいづちを打つ。保育園かっつうの。


すると突然。


『 キュィ──ン 』


歯に不快な振動が起きた気がした。


「どうしたの?」


「いま 歯が」


ビックリしたウチの動きに、ヘア師が鏡越しで顔を覗き込む。


「歯が痛いの?虫歯?」


あ、虫歯なのかな。


「うん なんでもない」


舌で口の中を舐めて思い出した。そういえば、この矯正器具、外すの忘れてた。


髪をコテで巻いてもらっている途中、店長が忙しそうに歩きながら話しかけてきた。


「あ 代表たち なんか遅れるらしいんだ」


「はあ?」


代表たちが遅れる?その為に早出したのに。


「いやあ ちょうど人も入って来たから助かるよ」


そう言うと店長は、後ろを通り過ぎようとしたボーイに振り向く。


「これ終わったら ジュリアさん指名の卓に サチさん入れて」


「あ?」