0002 渋谷 サチ (7/18)
ウチが店長を睨もうとしたら、店長はすでに背中を見せてドアの向こう。
ジュリアの卓にウチを?
店長には以前から、相性が悪いからジュリアと一緒にするなって言っていた。
なのに、さりげなくそれをシカトしやがった。忘れているのか、ただの嫌がらせか。最悪っしょこれ。
「サチさん お願いします」
その後すぐに髪のセットが終わり、ボーイがウチを呼ぶ。
憂鬱と怒りを感じながら、不機嫌全開で待機室から出た。
慣れたとはいえ、仕事中は多少の緊張感がある。表情には内なる怒りを出さない。ボーイの指示に従う、ただの無垢な女の子の顔を作る。
知らない。ウチはボーイの指示に従うだけの女の子。
ウチは何も知らない。
『 キュイ──ン 』
んもう!またやろ!
「あー サチさんおはよー」
表情には出さずにイライラしている気持ちを殺し、仕事へのスイッチを入れた所に、さらにウチをイライラさせる奴が近づいてきた。
「おはよ」
低血圧な姫キャラ女。
こいつの前で、店内の壁に貼られた鏡を見ると、自分の鮮やかな紅い髪がくすんで見える気がするんよ。
ジュリア。
コイツの前だとサチは霞む。