0001 港 タキオ (17/19)
「ジュリア 今日歯が痛いんだよねー」
ジュリアは静かな空気を紛らわすように、そう言った。
その言葉で、僕は目を限界まで広げる。
歯が痛い?
やっぱりジュリアもSCMを付けている!
僕は心の中で力強く叫んだ。
他人のサイフを拾ったような、黒い興奮が広がる。
「あたしもなんだよねー」
「関係ないだろー」
ジュリアの言葉に、景色のキャバ嬢が相づちをうち、友人が突っ込む。 紙に押しつける時間が若干短い気がしたが、それが許される空気だった。
ジュリアは1円玉を落とさずにクリアする。
「ふぅわ」
高い声で安心を表現するジュリア。友人は「んだよー」と大げさに体をのけぞらせた。
次は友人だ。
大人気無いのか盛り上げる為なのか知ったことではないが、唇を内側にしてグラスを睨むその表情はオーバーだ。20歳を越えたばかりの成人男性が、タバコ1本を持って必死になってる姿は、なんだか気持ち悪いと思った。
次にこんなことを考える自分が、意外に冷静だなと思う。