J000 世田谷 ツバキ (126/135)
千代田マリヤが、品川ゼロに訊いた。
「なんか、平気?」
唇を動かさないように、吐息のような喋り方だった。
ゼロは部屋の隅で体育座りをしていた。
「……大丈夫です」
一瞬では気づかなかったが、彼の手は震えていた。そして、式中のときから彼の手には手錠がはめられていた。
催しの一環か何かだと思ったが、タキオと会うときは例外を除いて手錠をはめていた。
しかし、髪の隙間から見える瞳は、どこか穏やかだった。
「……こういうときに言うのもなんですけど、家族が増えたみたいで嬉しいです」
彼は、一人で生きてきたのか。
彼の言葉で、誰も何も言わなくなった。
互いに寄り添い、不安を誤魔化す者もいれば、己の境遇を呪い、今さら静かに後悔をしている者もいる。
次第に、皆の口数がさらに減っていた。
僕には皆が何を思考しているかは分からない。
恐怖を待つ時間が本当の恐怖。
この部屋に流れる沈黙は二度と体験したくない、逃れられない絶望の待ち時間だった。
数分の沈黙のあと、中央アタルが時計を見た。
「時間だ」
それを機に、全員が立ち上がり、扉の前で列をなした。