J000 世田谷 ツバキ (123/135)

荒川エイアと大田ユウガは、ただ隣同士に寄り添って、よく見れば手を繋いでいた。僕と台東フジコは壁沿いで、彼らの近くにいた。


「……今日、暑かったね」


「うん」


「シャワー、浴びたいね」


「……うん」


ユウガの投げかけに、エイアは淡単と「うん」を繰り返した。


「……あっさり捕まったのは、何か策があったの?」


大田ユウガの問いかけに、荒川エイアは鼻をこすった。


「……なんにもないよ。あんたがズシとアヤくんに勝負させたときから、あたしにはなんにもなくなった」


荒川エイアの言葉に、大田ユウガの唇が動かなくなった。


「むしろ、あたしんなかには、初めから何にもなかった。けどあんたと出会って、空っぽのあたしんなかに、やるべきこととか、あたしの生きる意味を、あんたは注いでくれた。ズシにも再会できた。嬉しかった。アヤくんとセイヤくんと勝負したときまでは、正直、楽しかった」


荒川エイアはポツポツと降る雪のように続けた。


「あんたが、あたしの前で輝けるように、あたしも、あんたの前でなら輝くことができた。誉めてくれるのが嬉しかった。凄いんだよ、エイアは、って。言ってくれるたびにあたしのなかで、何かが育った。SCMなんかなくても、あたしはあんたの言うことを聞くとさえ思った……もともとそんなに器用じゃないし、機転も利かないよ、本当のあたしは」


彼女は泣きそうな顔で、「けど」と、言葉を震わせた。



「あんたの言うような、〝荒川エイア〟になれるよう、あたしはあたしを変えていったんだ」



彼女の言葉は、嫌味でも糾弾でもない。告白に思えた。


小さな一粒一粒が、僕の心にも溶けて染みわたるようだった。