J000 世田谷 ツバキ (122/135)
そんな彼の手を、足立シヲリが止めた。長袖のミニドレスで、濃いアイボリーのトップに気泡のような小さな斑点が浮かんでいる。黒のスカート部分に、レオパード柄のベルトが印象的だった。
「やめなよ、中野ちゃん。それ使ったのも、結局、あたしたちなんだから」
「シヲリさん! ……けど、けど、シヲリさんは俺が巻き込んだ!」
中野タイジュは胸元を握る。シャツにシワの螺旋が浮かんだ。彼の手首を、足立シヲリが掴んだ。
「自分のこと責めなくていいから。けど、人のせいにもしちゃダメだから!」
「けど、けどっすよ!?」
「落ち着け、2人とも」
間に入ったのは中央アタルだった。そんな彼を、中野タイジュが睨みつける。
「あんただって! あんただって人のことは言えないだろうがッ!」
中央アタルの眼鏡には、豹のような中野タイジュの顔が映っていた。
「愚痴はいくらでも聞いてやる。だが、大事なのは今までじゃなく、これからだろ」
「そんな選択肢もねーから言ってんだよ!」
今日の式を見て、タキオのような愚か者の奴隷になったことを、改めて焦っているのだろう。もしくは足立シヲリの身を案じてのことか。
「大丈夫だよ、中野ちゃん」
足立シヲリが、中野タイジュの手をギュッと握る。そして微笑んだ。
「あたしは……諦めない。水道止められたわけでもないし、電気もガスもあるし、ご飯食べれるし。ね? 生きれるじゃん」
「シヲリさん……」
彼女は小さめなその瞳に、強い意志を込めていた。
少し、掘り下げ過ぎな気もするが、キレイな容姿のわりにはなかなか個性的な体験をしてきたのだろう。
途端、中野タイジュの瞳に落ち着きが見えた。