J000 世田谷 ツバキ (118/135)
それから、さらに7週間が経った。
8月の3週目、先勝の土曜日、午前11時。雷雨。
僕は、いや僕たちは八王子の結婚式場にいた。
式場内にあるチャペルで、今まさに港タキオと妻アンジュの結婚式が行われている。ゲストハウスでの人前式だった。
参列者は港タキオの近しい友人や親族がほとんど。
連中は、天災のように行われた非常識な二ヵ月婚に戸惑い、どこか妬みながらも、表向きは度重なる拍手を繰り返し、笑顔で新郎新婦を祝福した。タキオは宝クジに当たった、とでも思っているのだろう。
リュウオウが集めた1800万円と、他の奴隷たちから徴収した1200万円。
それら血涙の金をふんだんに使い、彼は豪勢で見栄っ張りな挙式をおこなったのだ。
そして我々、港タキオの奴隷たちもそこにいた。身寄りのない新婦の友人として、我々は空席を埋めるために呼ばれた。
人前式のため、僕が仲介人を請け負った。
正面の扉が開き、バラの花びらを散りばめた赤絨毯を新婦が歩む。
新婦のアンジュの顔は真っ青に青ざめ、口元の吹き出物を厚化粧で隠していた。
祭壇へ一歩近づくたびに首すじから魂が抜け、今にも泡を吹いて倒れてしまいそうだった。
胸元はやせ細り、用意した純白のウエディングドレスはどう見てもゆるい。中絶手術を行ってから一ヵ月と少ししか経っていなかった。
2度目のウエディング行進曲が流れるなか、ラスタカラーで隠した十字架の下で、2人は永遠の愛を誓う。
参列者を見ると、奴隷たちは誰もが泣いていた。歓喜の涙ではない。
皆この境遇を呪い、アンジュに同情し、絶望の涙を流していた。
誓いのキスとともに外で雷鳴が轟き、礼服を着た新宿セイヤは目を背けた。
リュウオウはただぼうっと、左目の世界でこのデッドウエディングの模様を眺めていた。