J000 世田谷 ツバキ (114/135)
タキオという人間は、気に入らない人形劇に介入し、リュウオウという人形を地面に叩きつけ、踏みにじり、唾を吐いた。
そうまでして彼を駆り立てるものは何だ? リュウオウへの怒り? 葛飾アンジュへの愛憎? 僕には理解できない。
「申請しろ! 身長がチビのほうが負けだ! らっ、よ!」
「やめて! やめてッ!」
途端、悲鳴のような叫び声と甲高い罵声が飛んだ。葛飾アンジュだ。
正確には、彼女はずっと叫んでいた。音を拒絶していた僕の鼓膜が正常な機能を取り戻したんだ。
リュウオウは叩かれるたびに嗚咽を吐いていた。反面、泣きわめきはしなかった。
葛飾アンジュが立ち上がり、リュウオウを庇おうとした。
「アンジュがいればいいんでしょ!? アンジュが奴隷になるから! お願いします! お願いです!」
タキオは一瞬だけ葛飾アンジュを見た。が、リュウオウへのノックを続けた。
彼女が「やめて」と泣き叫ぶたびに、タキオの顔が見る見る歪む。そうか、港タキオの目的は葛飾アンジュ。
直後、葛飾アンジュが持ったSCMを、黒ずくめの女が取り上げた。
荒川エイアから返してもらっていたのか。葛飾アンジュはこの期に及んで、リュウオウの代わりに勝負を受けようとしたんだ。
逆効果だ。
アンジュがリュウオウへの献身を見せれば見せるほど、タキオはリュウオウを憎むんだ。
そして皆、タキオの操り人形だった。この場にいる生きた人間は港タキオただ一人。
タキオはリュウオウに言った。「奴隷にならなければ、お前のママを同じ目に合わせる」それが小さなきっかけになったのだろう。
額から頬に血が流れる、少年は血涙とともに瞳を閉じた。
間もなく、リュウオウはタキオに勝負を申請した──。