J000 世田谷 ツバキ (111/135)
未だ経験したことのない後悔の重力が、僕の心を重く縛り付ける。
反面、涙は出ない。妙にクリアな思考が、状況を嫌ってほど僕に教えた。
鉛を胃に入れられたような感覚を抱え、呼吸が苦しくなる。
逃げた者が敗北する宿命、道筋、末路。
逃げた僕だけが。にげたぼくだけが。ニゲタボクダケガ。
痛みに負けた。痛みに負けた。僕は痛みの奴隷。
やっちまったんだ、僕は。
『──チッ、カチカチ』
「え、あ!?」
再び、SCMの判定音が鳴った。直後、今までよりも、さらなる嫌悪感が胃から食道を突き抜ける。
「何故だ、あ、ォッ、がっ、あっ! 何故また鳴った!?」
「センセー、まだ気づかねーの?」
タキオの手には、僕の歯……Jがあった。タキオは作動させたんだ、Jのパブロフ機能を。Jと暴力をプロパガンダのように応用したんだ。
……さっきのはJによる、フェイクの判定。Jはおよそ30センチ以上、30メートル以内のドーナツ状の範囲にいるSCMに作用する。
僕の対戦者であるリュウオウがいることと、タキオの誘導によって、僕は勘違いした。奴隷になったと錯覚してしまった。
そして今鳴った2回目のほうが、奴隷になった本物の合図。
やはり、タキオは僕たちの勝負に参加していなかった。
僕は負けたことを錯覚し、本当に負けた。僕は、痛みに負けたんだ。
よって今、この瞬間に、タキオの奴隷……いや、あそこにいるリュウオウの奴隷に、僕はなった。