J000 世田谷 ツバキ (110/135)
「……え?」
何故鳴った? タキオとは勝負を開始していないはずなのに。
「……しょ、しょうびゅは本当だったのですか?」
痛みで、唇が震える。さっきの飴SCMがフェイク?
タキオは、本物のSCMをつけて、30メートル以内にいた。僕たちと、本当に勝負を開始していたのか。
タキオはニヤリと笑った。そして、僕の背後を見た。
「ちげーよ。ちょっとしたファインプレーだ」
「……あッ」
そこには、ボロ雑巾のようになったリュウオウの姿があった。隣には板橋ゲッコウと、黒ずくめの女が立っている。それに、もう一人……女のシルエットが見えた。
いた。いたんだ。僕の後ろにリュウオウが。
「あ、ああ、ああああ! あああァッ!!」
喉の痛みで初めて気付いた。無意識のうちに、僕は嗚咽していた。
声が震え、裏返る。
「あうあぁ、あああああ──」
土の地面にバットを埋め、タキオは体重を乗せた。
「何しろ人が多い。港監督はターゲットを絞ったのさ。何人いようが、3人以下でいいんだ。ゴキブリを炙り出すだけでいいのである」
僕、リュウオウ、荒川エイア。
心に重い入道雲が渦巻く。後悔の念が僕を貫く。
挑発に乗らず、警察を呼んだリュウオウの選択は正しかった。
ギリギリまでその場に留まることを選んだ、荒川エイアの選択は正しかった。
逃げた僕だけが最も、まんまとタキオの策にハマッた。
「そんな、嫌だ……嫌だ……こんなの、ゥァッ! アッ!」