J000 世田谷 ツバキ (107/135)
彼は再び、僕の奥歯に指を添えた。そして力を込めた。
口を閉じようとしても、奴は左手で無理矢理開けさせた。
トゥルッという喪失感とともに、歯を抜き取られた。
タキオはまじまじと、僕から奪い取ったものを見つめる。
「へえ、これか」
Jだ。臼歯と同じ形状で、窪みに小さなスイッチがある。
そのとき、タキオの後ろで何かが動いた。
「う、あが!」
鈍い音とともに、タキオは倒れた。左の肘で身体を支え、背後を睨む。
その後ろに、大きな石を持ったフジコが立っていた。
「……いい加減にしなさい、よ!」
彼女はさらに石を掲げ、タキオに向かって落とそうとした。
「このクソアマ!」
「キャッ!」
タキオのバットが、フジコの足首にヒットする。彼女は体勢を崩し、石もろともその場に崩れた。
「ラッ! ォラババア!」
自身の頭を抱くフジコを、タキオは何度もバットで殴った。彼女の声が聞こえなくなるまで。
「バゥフッ!」
「んだよ! 今度は犬か!」
そのとき、アーデルハイトが遠目の林に現れた。中央が車から解放したのか。
アーデルハイトは落ち葉を鳴らし駆け寄ると、タキオの背中に噛み付き、奴が着るセーターを食いちぎった。
「ッタ! このクソ犬もテメーのだろ! 飼い主も同じざま、だっ!」
アーデルハイトは持ち前のフットワークで善戦している。かに見えたが、ズシオウマルとの戦いでできた傷は、まだ新しい。時間の問題。そう判断した。
僕は腕に力を込めた。肩に激痛。脱臼したかもしれない。だが、この隙に、僕は逃げるしかない。
膝と肘で体重を支え、僕は立ち上がった。