J000 世田谷 ツバキ (59/135)
「オオォ」
見る見る内に、ズシオウマルの動きが幼くなる。疲弊が伝わる。
蟻地獄にハマッた蟻のように、もがいても抜け出せない。
荒川エイアの震える拳が見える。彼女は、今にもリングへ走り出しそうだった。
(ズシって、人の言葉を普通の子よりも、理解してるのよね?)
フジコの小声に、僕は(はい)と応えた。
台東フジコに対し、わんぱくの四文字が浮かぶ。
「やめさせろ!」
エイアの猛々しい声が、ガソリンスタンドに響いた。
「ごめんなさいね。しばらくエサを与えていなかったから、お腹が空いてるみたい」
「あっ!」
「よせエイア!」
刹那、ついにエイアが動いた。
「バフゥ!」
彼女は袖で拳を包めると、アーデルハイトの口元へ無理矢理それを差し込んだのだ。
アーデルハイトはひるみ、ズシオウマルの喉を離した。