J000 世田谷 ツバキ (56/135)

「さっきのゼンイチ、リュウオウの命令を聞いていませんでしたよね?」


杉並ルシエが僕を見た。


「原因は痛みによる、脳内麻薬のエンドルフィンでしょう」


脳内には現在発見されているだけで、およそ20種類もの脳内麻薬が存在する。厳密には20種の脳内麻薬の分泌が可能ということ。


なかでもベータ・エンドルフィンは無類の鎮痛作用を持つ脳内麻薬。モルヒネのおよそ6.5倍もの効果がある。


SCMの効果は、そのほとんどを脳に依存している。


「仕事での緊張感、友達や恋人といる高揚感も同様に、痛みへのシグナル。すなわち脳内麻薬の作用によって、SCMの効果は前後します」


要は、さっきのゼンイチはSCMが効きにくい状態のなか、優先順位を一時的に私怨にまわした。


「主人への反抗ではない、という水面下のボーダーラインによる、微々たる私情の行動です」


環境や当事者の状態によって、微々たる効果の薄まりはあるものの、主人への反抗の場合は、別格の効果がある。


「話は分かったが、耳を食い千切られたから、命令が聞こえなかったんじゃないのか? 俺はそう思ったが」


中央アタルの指摘に、皆が黙った。


「……そうかもしれませんね」


ぐぞおおおおおおお! 中央アタルうううう! あとで覚えておけよおお!